Spiga

Jimmy Eat World / Clarity


皆さんはエモというジャンルについてどのような先入観をお持ちだろうか?2000年代にメジャーチャートで大ブームとなったこのジャンルは、所謂メロコアとして知られていると思う。メロコアと聴くと、やはり音楽を多少掘り下げている人たちにとっては、余り内容の少ない似通った作品が多いためか、少なからず好印象持っていないだろう。

こうした2000年エモの立役者(決して皮肉ではない)であるバンド、Jimmy Eat World。このバンドに興味を持ち出したのは彼らの3rdアルバムである『Clarity』を聴いてからである。僕ははっきり言ってこのアルバムを聴いていないJEWフリーカーは、彼らの才能の10分の1も知らないと言っても過言ではないと思う。

彼らの3rdは聴いてみたらわかるが、一つ一つの音がとても洗練されていて透明感溢れるアルバムである。デスキャブの『The Photo Album』や、Sunny Day Real Estateの3rdにも通じるサウンドは、90年代に生まれた初代エモに影響を受けている。エモというジャンルの原点は、決してメロコアというものではなく、むしろその逆で、奇麗なアルペジオが印象的である。感覚的には元気さ一杯のメロコア的エモーショナルではなく、一人寂しい夜などに静かに泣き叫ぶエモーショナルである。2000年以降のJEW好きよりもデスキャブ好きに薦めたいアルバムである。




Jimmy Eat World / Lucky Denver Mint

ちなみに次のアルバムからはメロコア全開です。僕は好きだけど(笑


Toro Y Moi / Causers Of This

最近のアメリカインディーシーンにおいて個人的に最も興味深くて面白いなぁと思うのが、エレクトロポップシーンである。昨年ヒットしたインディーエレクトロの作品の中で共通していたのは宅録感たっぷりのローファイサウンド。そもそもエレクトロがムーブメントとして発達した先端的なサウンドとは真逆の発想であった。こういうシーンが生まれる流れとかは詳しく知らないけど、今回コロンビアからの新人さんであるトロ・イ・モワ(あってる?)もまた、こうしたシーンの中から出てきたアーティストである。



彼のサウンドで特徴的なのが気味の悪い、まるで深海にいるような幻想的なサウンドである。メランコリックにさせるこの独特な感じに何故か体が揺れるのが自分でも不思議なくらい気味が悪い。去年出たアーティストの中でネオン・インディアンやメモリー・テープスのような自然的、有形な音を投げかけてくるのではなく、彼が鳴らすのはウォッシュド・アウトのような無形の音と言ってもいいのかもしれない。やはりそういった意味でもかなり取っ付きにくいが、アルバムを聴いていると徐々にこの音が快感に変わっていく。ダウンテンポな曲が多いため、本当にゆっくりと彼の音に順応していく様が体感できるという点で見ても、かなり聴きがいがある作品だ。周りの音がふんわりと不協和音で重なる割にメロディーはとてもポップで洗練されているので、慣れてくれば最高のポップミュージックになりうるだろう。



Toro Y Moi / Blessa


Corona


2月の来日ラッシュのニュース見ながら、あぁ東京に住んでればなぁとつくづく思う。僕なんかディヴェンドラ大好きなんだけど、東京に住んでれば「何となく行ってみるか。」的なノリで行ったりする人、多いんだろうな、と思うと切なくなる。福岡にいる僕は寂しくバイトしながら休憩時間にポニョを見るというごく普通の生活な訳だ。




ディヴェンドラとは全く関係ないけど、最近というかここ二日くらいは、ポストハードコアばかり聴いている。といっても主にフガジのアルバムを全部聴き直したりとか、ミニットメンの他のアルバム聴いてみたりとかだ。
そんなことしてたらミニットメンどっぷりはまってしまったようだ。これもの凄く格好いいよ。曲は基本的に1分行くか行かないかくらいのばっかりなんだけど、シンプルで本当に素晴らしい。初期ハードコアにポストパンク的な、陰鬱なフレーズを合わせたような、まぁ要するにハードコアを少しひねった感じだ。こんな発想からポストハードコアってジャンルが生まれたのかな?よくわからないけど。

ちょっと長いけどライブ映像があったので是非。ギターの人のダンスがちょっと不快だけど、愛嬌として捉えてください。笑



期待の新人 2010 1月〜3月


去年はCymbals Eat Guitarsやら色々出たけど今年はどんな良いバンドが出るだろう。そんな訳で今注目している新人アーティスト紹介しておきます。

最近ニューアルバムがPitchforkのBest New Musicにも選ばれた彼ら。去年のサーフロックブームに乗っかりつつ、さらにこの圧倒的な元気は新人ならではのもの。


初期スプーンや80年代パワーポップ的なサウンドを奏でるバンド。もの凄く格好いいです。今は亡きThe Exploding Hearts以来のヒットでは。まだニューアルバムが出てないので、それを聴くまでは何とも言えないが、マイスペを聴くあたりでは、衝撃のデビューになるのでは?


昨年リリースしたEP『Summertime!』が大ヒットし、サーフロックブームを位置づけた彼ら。やっとファーストアルバムを出すみたい。これまたグッドです。


レインコーツやスリッツを彷佛とさせるガレージバンド。今年はガレージブームが来ると勝手に睨んでる僕としては、大注目のバンドです。


最後に彼女達。これもまたサーフロック系列のバンドです。昨年EPを何枚か出して、今年も出すみたいだけど、個人的には早く1stアルバムが聴きたい所。このバンドのソングライティングセンスは半端ないですね。





The Drums / Let's Go Surfing



Charlotte Gainsbourg / IRM

セルジュ・ゲンズブールは悲しい時に幸せな曲を書いて、幸せな時に悲しい曲を書くそうな。なんて格好良い。


さて、そんなセルジュさんとジェーン・バーキンの娘であるシャルロット・ゲンズブール。『恋愛睡眠のすすめ』などで有名な彼女だが、この度、アーティストとして2枚目のアルバムをリリースした。今回の作品はベック好きの人たちの間では既に有名だろうが、プロデューズやソングライティングは全て彼のものらしい。ベックとシャルロットが組むと初めて聴いたときは驚いたけど、アルバム聴いてみてさらに吃驚。ベックらしさが、直に伝わってくる。ベックプロデュースって聴かなくても、ベックぽいなと思ってしまう。そもそも僕はシャルロットの声が大好きなので、前作『5:55』の時から好きだったんだけど、今回は彼女の声以外にも魅力があるというか、むしろベックの仕事の部分に魅力があると言える。ソングライティングが魅力的な「Heaven Can Wait」や、アヴァンギャルドな音が印象的な「IRM」など聴き所満載である。ベックのやりたい事が全てシャルロットの声に置き換えられている感じだろうか。

フレンチ・ポップとしては今年圧倒的1位の今作は今の所の個人的ベスト作品です。ベックの作品としても2000年に入ってからなら恐らく1位。『Sea Change』よりも好きだ。

ちなみにフレンチポップ関連として、フェニックスがグラミー賞を受賞したらしい。おめでとうございます。



Beck & Charlotte Gainsbourg / Heaven Can Wait

シャルロット美人だよなー。




Four Tet / There Is Love In You


彼がダブステップをやるとこんな風になってしまうんだなぁ。Kieran HebdenことFour Tetの5枚目のアルバム。

一曲目からミニマルな展開と軽快なダブステップにおや、と感じるが、曲が進むにつれて、あぁFour Tetだ、と頷いてしまうのは、やっぱり彼の原点であるフォークトロニカの匂いが漂うからであろう。しかし今までにこんなに軽快なフォークトロニカが存在しただろうか?こんなことを成し遂げるあたりが彼の鬼才ぶりと嫌らしさなのだろう。

今回のアルバムで彼がダブステップに特化している理由として、やはり昨年のBurialとのコラボが大きいと思われる。昨年のダブステップブームの楽曲たちにも劣ることのない、というか、そのブームに上手く乗っかり最も成功したアルバムとも呼べる今作は、天才Burialの良い所を上手く盗み、それを自分の音に変えてしまった”鬼才”の偉業なのである。


シングル曲「Love Cry

Spoon / Transference


ゼロ年代、アメリカのインディーシーンで最も勢力的に活動し、数々の傑作を生み出したバンドの一つ「スプーン」の通算7作目となるアルバム。10年代ムーブメントの先駆けとなる今作は、7作目にして尚、実験を続ける彼らならではのユーモアとポップさのアイディアの詰まった引き出しを最大限に活かした作品である。


今回のサウンドでの変化が顕著である部分は、空間系のリバーブ・ディレイを多用した音のエフェクトである。これによって醸し出される雰囲気はThe Clashの『ロンドン・コーリング』や、ましてや昨年亡くなったキング・オブ・ポップを始めとするR&Bを感じさせる。さらにヴォーカルのブレット・ダニエルから発せられるあの声、その独特な倦怠感を包むようなエフェクトにより、よりヴォーカルに”リアル”を感じることが出来る。音楽オタクでも知られるブレットの中の黒人ミュージックに対する解釈とでも呼ぶべきか。

キャッチーさとポップさに追求した前作に比べると、よりダークで渋く、少々難解な所もあるかもしれない。しかし10年代に入り早々、アメリカインディーのドンが投げかけた、この『Transference(感情転移)』というアルバムは、明らかに我々の心の中の「感情」に問いかけているのである。


The xx / XX


こんなにもシンプルなドリームポップが今までに存在しただろうか?ロンドン発のThe xxは皆弱冠20歳という強力な4人組である。

このアルバムにおいて、僕は無駄な音を見つけることが出来なかった。冒頭から高揚感たっぷりのドリーミーなサウンドが流れてくるのだが、これをドリームポップを奏でるニューカマーと括るのは違うな、と思ってしまう。明らかにこのバンドを作っているダブステップが従来のドリームポップサウンドとは相違をなしているのである。全ての音が絶妙に入ってくるため、いかにも1stアルバムという感じはするのだが、これらの楽曲を全て自分たちで手がけたという所からも、やはり意図的、作意的なアルバムなのである。

ダブ、ポストパンク、ドリームポップと、様々なジャンルが当てはまりそうで、どれも当てはまらないという全く新しいジャンルを生み出した彼らのデビュー作を、ただ凄いと言って片付けるのは簡単なことである。しかし何が凄いかって、それは恐らく4人揃って初めて完璧な音になるということ。シンプルが故に一つの音にも狂いを生じさせることが出来ないということ。こんなにも相性のいいメンバーが揃ったバンドが悪い作品を作るはずがないだろう。どんな有名プロデューサーも彼ら4人の間に入っていくことはできないのである。それは調和を乱すことになるから。こういうバンドを見てると、やっぱりバンドって良いなって思ってしまうんだよなぁ。

ライブもまた絶妙。





Is This It?


2010年という年号は歴史においての一つの節目であると同時に、音楽の歴史にとっても重要な節目となってくる。そもそも2009年から一つ年を取っただけのことであるが我々はどうしても〜年代という言葉で括りたくなる傾向があるのである。つまり2010年、音楽における10年代が始まったわけである。(10年代って書くとどうしても違和感が否めないのだが。)


そんなわけで10年代の始まりに必要な、いや重要な曲、それがどういうものなのか考えてみる。

重要な曲と述べたが、やはりそれは一つのムーブメントを生む必要があると思うのである。ムーブメントと言えばこれまで幾多ものムーブメントが起きており、それが周期性を帯びていることは明らかであろう。簡潔に言うと、衝動→変化→衝動の繰り返しである。(ニューヨーク、ノーウェイブなどは別の次元での話。)

2000年代を振り返ると2000年当初にRadioheadの『Kid A』がリリースされ、人々は時代の最先端を思い知ることになる。これが"変化"の言わば集大成である。すると翌年現れたのがニューヨークからの洒落た五人組であった。2000年代に青春を迎えた誰もが通るThe Strokesの『Is This It?』。女性の臀部が大きく書かれたこのジャケットは当時のアメリカで大きな波紋を呼んだという。「Is This It?」という意味深なボーカルにアンプ直のサウンドは、とてもキッドAが大ヒットした翌年の出来事とは思えない。でもそれが一つのムーブメントとなってしまったのだ。当時の10代の音楽キッズ(私)達は毎日のようにCDプレイヤーで再生しながら学校へ行ったことだろう。

それから2000年代が終わりに近づくにつれミュージックシーンは何度か小さな衝動→変化を繰り返したが大きく言えばアニマルコレクティブ等を筆頭に変化の時期に入る。そこで2010年、大きな衝動、それが鍵となってくる。その手がかりとなるべく昨年、Girlsというサンフランシスコからの二人組デュオが登場したが世界中を虜にするとまではまだ至っていない。今年こそ、Is This It?を思い起こすような、そんな衝動を待つのはどうだろう?それがリスナーのあり方ではないだろうか。

最近の情報では、ストロークス自体の新作が何となく上手く行っていない印象を受けるが、ひょっとすると彼らが自らの手でムーブメントを起こすのかもしれない。高校時代に聴いていたロックバンドのほとんどは、もはや聴くことのなくなった最近ではあるが、やはり彼らだけは期待せずにはいられないのである。