Spiga

ラベル record review の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル record review の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

The War On Drugs / Wagonwheel Blues

近年、Antony & the Johnsons、Here We Go Magic、jj、Yeasayer等の良作のリリースが続くSecretly CanadianSecretly Canadianと言えば、米北東部インディアナ州ブルーミントンを拠点とし、Oneida、Okkervil River等のJagjaguwar、Dirty Projectors、The Tallest Man On Earth等を輩出し近年勢力を上げているDead Oceansと姉妹型レーベルというユニークな戦略で地位を獲得してきたレーベルであり、現在のUSインディーの土壌を支えているレーベルの一つであるが、そのレーベルの中で(個人的に)今最も注目をしているのが、フィラデルフィアを拠点として活動しているThe War On Drugsである。

The War On Drugs、このレーガン大統領の麻薬戦争政策からも取られたと思われるバンドの2008年にリリースされた1stアルバム『Wagonwheel Blues』がもの凄く良いので紹介したいと思う。『Wagonwheel Blues』というタイトルからも想像できるように、このアルバムは最高のロード・トリップ・ミュージックである。一曲目のArms Like Bouldersの冒頭から歪んだハーモニカが鳴り響き、ギターが絡み合い、所謂カントリー調の展開で幕を開ける。The Bandを彷彿させると言っても過言ではない古風な趣のある深く染み渡るメロディに胸は踊りだす。この要素だけでも十分に素晴らしいバンドと言える。しかし、それだけではない。このバンドが明らかに他のカントリーバンドと一線を画している点は、現代的なサイケデリアの匂いをしっかりと漂わせてくる点にある。これが彼らのアイデンティティを確立している点、つまり彼らを単に良質のカントリーバンドであるとは断定できないのである。

彼らの中でサイケのスパイスを与えている重要人物がギターやトランペット、プロデュースで参加しているKurt Vileであろう。彼の音楽を聴けば一目瞭然であると思うが、彼ならではの淡い哀愁あるギターのリフが、このアルバムに明らかにインパクトを与えている。そしてそれにAdam Granducielの批判的ではあるが、決して押し付ける訳ではない優しい歌詞と歌声が絡み合い、それが最高のハーモニーを生み出しているのだ。まあKurt Vileが好きな人にとってはそれだけで買いなアルバムである。とりあえずアルバムの1、2曲目を貼っておくので聴いてみてください。

The War On Drugs / Arms Like Boulders

The War On Drugs / Taking The Farm

そしてなんと今月(11月)の頭に彼らの新作EP『Future Weather』がリリースされている。このEPもまたまた最高なので、その中からも一曲どうぞ。

The War On Drugs / Coming Through




Hotel Mexico / His Jewelled Letter Box

ここ数年、海外のメディアから日本のバンドがフューチャーされるということは実に稀なことであった。新しいアイディアが求められる今の音楽シーンで、日本のバンドは昔から模倣のバンドというステレオタイプを持たれているせいなのか、ほとんど日本の音楽は敬遠されていた。ただ、京都で生まれたこのバンドには、そのようなステレオタイプを払拭する、才能とセンスに溢れていたのである。

京都府出身の6人組バンドHotel Mexicoは、同じ大学のバンドサークルで結成されたエレクトロ・バンドである。結成時は4人編成であったが、その後2人が加入し今の編成となった。メンバーの石神と菊池は、バンド結成前からそれぞれDJをしており、主に最近(2009-2010)のアメリカ・インディー・ミュージックに多大な影響を受けているようだ。そして京都発のSecond Royal Recordsから今年8月、1st EPとなる『His Jewelled Letter Box』をリリース。この発売前後に海外の影響力の強いインディー・ブログDon't Die WonderingPinglewood20jazzfunkgreats、等に紹介され、後にAltered ZonesPitchforkにまで記事が上がり、一躍海外での評判を上げたのである。

彼らのサウンドの特徴はチルウェイブとも比較される脱力感のあるボーカルにグイグイ絡んでくるベースラインやドラム。妙なエフェクトのかかったセンス溢れるギター、シンセ。そしてなんと言ってもこれらの音がバンドとして、しっかりとしたグルーヴ起こしているところに魅力がある。スペインのデロレアン(Delorean)に最もサウンドとしては近いだろうか。前にも一度上げたが彼らの出世曲"It's Twinkle"をとりあえず聴いて欲しい。決して英語の発音は良いとは言えないけれど、そんなことを忘れさせてくれるくらいグルーヴィな曲である。
Hotel Mexico - Its Twinkle by Second Royal Records

Hotel Mexicoが海外に反響を呼んだことによって、今日本の音楽が海外に再評価されているといっても過言ではないかもしれない。現にあふりらんぽ(Afrirampo)の新作は海外ブログRaven Sings The Bluesに紹介され、最近Second Royal Recordsからカセットをリリースすることになった兵庫出身のFriendsThe Road Goes Ever Onに紹介され、話題になっている。勿論、インターネットによる情報のフラット化により、気軽に海外のインディー・ミュージックを聴き易くなったことで、日本の音楽が海外のリスナーに触れられる機会も増えたのだろう。実際にその結果が目に見えて現れている今だからこそ、Hotel Mexicoのヒットが日本の音楽を世界に広める突破口となっていけばいいなあとしみじみ感じている。





No Age / Everything In Between

最近の音源のデータ化進行により、音楽という文化、ジャンル、そして音楽それ自体が肥大化していて、リスナーである私達は一体どの音楽を聴けば良いのか、それを探すのに苦労する世の中になったと考える人も多いでしょう。

実際に最近のシーンの移り変わりは激しい。2年前までに顕著であったローファイノイズポップシーン。日本ではニューゲイザーだのグローファイだの様々な呼ばれ方をした、この新しいジャンルですが、近頃では西海岸のサーフロックブームに完全に飲み込まれている感が否めません。

そんな中、このLA出身の二人組バンドNo Ageも前作「Nouns」により世間にローファイノイズ文化を植え付けた立役者であり、彼らも2008年、その当時主流であったローファイ感溢れるノイズを全面的に押し出した「Nouns」により、いわばシーンに乗っかった形で、その名を世間に轟かせ、確固たる存在へとのし上がったのです。しかし今作の「Everything In Between」、これを聴いて、彼らのノイズの必然性、それがシーンという括りに含まれないこと、一線を画していることに気づかされてしまいます。

それを証明するのが、今回のアルバムに顕著である、あらゆるノイズの融合。サンプリングノイズや生音のノイズを組み合わせ、それを彼ら特有のパンキッシュでポップなメロディーに昇華しています。ノイジーさを全面に押し出した前作よりは、音は落ち着いていて、楽曲はポップで聴きやすいメロディーが多い。これらの変化は明らかに時代に順応した変化というよりは、自分たちとの戦いにより起きた変化です。彼らは西海岸で広がってるシーンを横目でチラリと見ながら、自ら出した前作「Nouns」に挑み、そして見事にその壁を越えることに成功しました。まずはそれを証明する先行シングルGlitterをお聴きください。
No Age - Glitter by subpop

結局彼らは今作「Everything In Between」により、シーンからの脱却をとげることに成功しました。自分たちは自分たちの場所で鳴らしたい音を鳴らしているというプライドや使命感なるものを、彼らの知的でちょっとひねくれた音や歌詞の中から感じることが出来ると同時に、これが次作へ繋がる一歩であるということも、私達にほのかに匂わせてくれます。理屈抜きで良いアルバムなのでオススメです。是非!





Foxes In Fiction / Swung From The Branches

カナダ、トロント発の新星Foxes In Fiction!バンドではなく、Warren HildebrandというDeerhunterのBradford Cox大好きっ子のソロプロジェクトであるFoxes In Fiction。彼の1stアルバムである「Swung From the Branches」がもの凄く良いので紹介します。

まず始めにこのアルバム、19曲入りという大作なのですが、彼のホームページからフリーダウンロードできちゃうので、ココからダウンロードページに跳んでダウンロードしてみてください!

さて、冒頭に述べたように、このFoxes In Fiction、DeerhunterのフロントマンであるBradford Coxを敬愛しているらしく、この「Swung From the Branches」にも大きく影響を受けているのが見て取ることが出来ます。特にBradford CoxのソロプロジェクトであるAtlas Soundの作品である「Let the Blind Lead Those Who Can See but Cannot Feel」に大きく感化されているようです。そのためアルバムの冒頭からアンビエントな展開が続き、何処までもシンプルな (ベッドルームポップと言うべき) 録音方法でとられています。前半はアンビエントインストな曲が続き、後半からポップな曲が並ぶこの曲順は少しディアハンターの「Cryptograms」を意識しているのかも・・・!そしてボーカルもかなりBradford Coxの声を彷彿させます(笑)

ここまで似てる似てると言うと、ただのブラッド好きが作った劣化版Atlas Soundじゃん、と思ってしまう方もいるかもしれないのですが、全然劣化版とかじゃなくて素で良いのでオススメなんです。アルバム一ポップな「15 Ativan (Song for Erika)」や、アンビエントな演奏にスポークンワードが乗っかった「8 / 29 / 91」など、彼ならではの才能あふれる曲が沢山入っています。聴いてる人を夢見心地にさせてくれる、そんな素晴らしいアルバムです。とても贅沢なアルバムなので是非ダウンロードしてみて、聴いてみましょう!

Foxes in Fiction - 15 Ativan (Song for Erika) by Surfing on Steam


Best Coast / Crazy For You

夏真っ盛り!ということで夏にピッタリな西海岸バンド、Best Coastが遂に1stアルバムをリリースします。メンバーはLAを活動拠点としているBethany Cosentinoという女の子と、Bobb Brunoという変なおっさんのデュオであり、2009年からリリースし続けているシングルがソールドアウトを連発していて、Sonic Youthのサーストン・ムーアや、あのビル・マーレイまでもがファンと公言している、もう既にアメリカ(や恐らく日本でも)で人気を確立している将来有望なインディーバンドなのです。

そんな彼女達が遂に待望の1stアルバムをリリースするということで胸を躍らせながら聴いていました。個人的にはシングルからの選曲が「When I'm With You」しか入っていないため、ちょっと不安でした。なぜならシングル曲の楽曲センスが圧倒的であり、アルバム全体を通して聴くと、やはり捨て曲というものがどうしても生まれてしまうんじゃないかと。しかしやっぱり今の彼女達はセンスに溢れています。個人的に、彼女達の楽曲の感じ(ミドルテンポかつ60年代ガールズポップが混ざったようなノイズポップ)にツボってしまっているというのが大きな要因な気もしますが、やはり名曲づくしなアルバムです。おそらくシングルの時からファンである方々とっては、少し物足りなさも感じているでしょう。しかしそんな人たちはこんな僕のレビューなども必要ないでしょうし、とりあえず今からBest Coastを聴き始める人にとってみれば、もう本当にオススメな作品です。そのうちコンピも出るでしょう。多分今は亡きJay Reatardのようなリリースの仕方を展開していくのでは、と睨んでいます。

アルバムはココから全曲試聴できるみたいです。是非聴いてみてください。

この曲はアルバムには収録されてないけど、とても良い曲なので是非。
Best Coast / That's The Way Boys Are

すぐ終わっちゃうけど、映像がとても可愛らしいです。

ちなみにボーカルのBethanyさんはWavvesと付き合っているみたい。なるほど、という感じですねー(笑)

Beachwood Sparks / Beachwood Sparks

2000年、当時のSub Popで絶大な人気を持っていたバンド、Beachwood Sparks。今回は90年代アメリカインディーシーンの重要な存在であるLilysやFurtherのメンバー達によって結成された、このBeachwood Sparksのサウンドにやられてしまったので紹介します。

彼らのセルフタイトルの1stアルバムのジャケットを見てみれば分かるだろうが、このポップ調なカラフルなジャケットから、90年代の伝説となったエレファント6界隈の音楽をイメージするだろう。やはり彼らが元Lilysのメンバーということもあって90年代のそこ界隈のジャンルとは何らかの形で関わっているみたい。それは、やはりこのアルバムが多彩なコーラスワークからなっているということ、きっとThe Olivia Tremor Controlが好きなら、絶対気に入るはずである。

また、このコーラスワークの土台に形成されているカントリー調の演奏が上手く絡み合って心地よい。60年代のカントリーロック、The ByrdsやThe Bandを想像するといいかもしれない。そして明らかにThe Beach Boysのような60年代西海岸のバンドの影響を隠せない。やはり彼らが西海岸の出身であるという事実が現れているのだろう。

そしてこのBeachwood Sparksはただの60年代カントリーロックリバイバルバンド、で終わらせない所が素敵な所である。どこまでも分かりやすいカントリーロックを追求している曲がほとんどを占めているアルバムなのだが、彼らがLilysに在籍していたという事実から、やはりこの宇宙を思わせる浮遊感、ドリーミーなサウンドはぬぐい去ることは出来ないのである。このバンドのことを何も知らない人に聴かせると、60年代のバンドと答える人は、かなりの数いるだろうが、何曲か聴いた後に「おや、やっぱり90年代のバンドだ。」と、そうなるはずである。60年代のバンドに影響を受けながらも、どこまでもリアルタイムにこだわった作品なのである。とてもオススメなので是非聴いてみてください。

The Morning Benders / Big Echo

今年一押しのThe Morning Bendersの2ndアルバム。サンフランシスコからの最近流行の西海岸ポップバンドであり、ジャケからみても、なんとなくサーフなイメージがつくだろう。そんな時代の波に乗った彼らだが、はっきり言って今までのサーフロッカー達とは一線を画している。

一曲目の「Excuses」。この曲はガールズやリアルエステイトと曲調なども似ており、メジャーコード、ミドルテンポの聴きやすいナンバーである。ガレージやパンクを、より西海岸的要素を踏まえて昇華し、(ワルツに乗せて)とても聴きやすく、今年の中でも名曲中の名曲にランク付けされる曲である。しかしこの曲だけでこのバンドを判断するのは、大きな間違いであるのだ。

彼らの楽曲の中で明らかに目立つ要素なのが、コーラスとスローでサイケデリックな曲調である。こういった曲が大半をしめているため、純粋なポップバンドとは言いがたく、どちらかというと聴きやすい、というイメージはなくなる。これにはGrizzly BearのChirs Taylorとの共同プロデュースが大きな要因であろう。グリズリー好きの人はなんとなくわかったかもしれないが、彼らのコーラスワークや、ギターのフレーズの特徴が酷似しているのである。ここまでスローなテンポで抑えているのも、やはりPet Sounds期のビーチボーイズの影響が見えるからである。


最近の西海岸のロックバンド達の傾向として、ガレージやパンクにサーフ的要素を交えるバンドが多かった気がする。その中でも、The Morning Bendersは、より忠実にサーフロックを継承した、純粋なビーチボーイズフォロワーではないだろうか。彼らの1stは、ポップ要素を全面に押し出していた。しかし、今作『Big Echo』で明らかな成長を遂げた。その成長ぶりには目を見張るものがあるし、時代の流れとともに恐らく次作でも大きな変化を取り入れてくるだろう。


Jimmy Eat World / Clarity


皆さんはエモというジャンルについてどのような先入観をお持ちだろうか?2000年代にメジャーチャートで大ブームとなったこのジャンルは、所謂メロコアとして知られていると思う。メロコアと聴くと、やはり音楽を多少掘り下げている人たちにとっては、余り内容の少ない似通った作品が多いためか、少なからず好印象持っていないだろう。

こうした2000年エモの立役者(決して皮肉ではない)であるバンド、Jimmy Eat World。このバンドに興味を持ち出したのは彼らの3rdアルバムである『Clarity』を聴いてからである。僕ははっきり言ってこのアルバムを聴いていないJEWフリーカーは、彼らの才能の10分の1も知らないと言っても過言ではないと思う。

彼らの3rdは聴いてみたらわかるが、一つ一つの音がとても洗練されていて透明感溢れるアルバムである。デスキャブの『The Photo Album』や、Sunny Day Real Estateの3rdにも通じるサウンドは、90年代に生まれた初代エモに影響を受けている。エモというジャンルの原点は、決してメロコアというものではなく、むしろその逆で、奇麗なアルペジオが印象的である。感覚的には元気さ一杯のメロコア的エモーショナルではなく、一人寂しい夜などに静かに泣き叫ぶエモーショナルである。2000年以降のJEW好きよりもデスキャブ好きに薦めたいアルバムである。




Jimmy Eat World / Lucky Denver Mint

ちなみに次のアルバムからはメロコア全開です。僕は好きだけど(笑


Toro Y Moi / Causers Of This

最近のアメリカインディーシーンにおいて個人的に最も興味深くて面白いなぁと思うのが、エレクトロポップシーンである。昨年ヒットしたインディーエレクトロの作品の中で共通していたのは宅録感たっぷりのローファイサウンド。そもそもエレクトロがムーブメントとして発達した先端的なサウンドとは真逆の発想であった。こういうシーンが生まれる流れとかは詳しく知らないけど、今回コロンビアからの新人さんであるトロ・イ・モワ(あってる?)もまた、こうしたシーンの中から出てきたアーティストである。



彼のサウンドで特徴的なのが気味の悪い、まるで深海にいるような幻想的なサウンドである。メランコリックにさせるこの独特な感じに何故か体が揺れるのが自分でも不思議なくらい気味が悪い。去年出たアーティストの中でネオン・インディアンやメモリー・テープスのような自然的、有形な音を投げかけてくるのではなく、彼が鳴らすのはウォッシュド・アウトのような無形の音と言ってもいいのかもしれない。やはりそういった意味でもかなり取っ付きにくいが、アルバムを聴いていると徐々にこの音が快感に変わっていく。ダウンテンポな曲が多いため、本当にゆっくりと彼の音に順応していく様が体感できるという点で見ても、かなり聴きがいがある作品だ。周りの音がふんわりと不協和音で重なる割にメロディーはとてもポップで洗練されているので、慣れてくれば最高のポップミュージックになりうるだろう。



Toro Y Moi / Blessa


Charlotte Gainsbourg / IRM

セルジュ・ゲンズブールは悲しい時に幸せな曲を書いて、幸せな時に悲しい曲を書くそうな。なんて格好良い。


さて、そんなセルジュさんとジェーン・バーキンの娘であるシャルロット・ゲンズブール。『恋愛睡眠のすすめ』などで有名な彼女だが、この度、アーティストとして2枚目のアルバムをリリースした。今回の作品はベック好きの人たちの間では既に有名だろうが、プロデューズやソングライティングは全て彼のものらしい。ベックとシャルロットが組むと初めて聴いたときは驚いたけど、アルバム聴いてみてさらに吃驚。ベックらしさが、直に伝わってくる。ベックプロデュースって聴かなくても、ベックぽいなと思ってしまう。そもそも僕はシャルロットの声が大好きなので、前作『5:55』の時から好きだったんだけど、今回は彼女の声以外にも魅力があるというか、むしろベックの仕事の部分に魅力があると言える。ソングライティングが魅力的な「Heaven Can Wait」や、アヴァンギャルドな音が印象的な「IRM」など聴き所満載である。ベックのやりたい事が全てシャルロットの声に置き換えられている感じだろうか。

フレンチ・ポップとしては今年圧倒的1位の今作は今の所の個人的ベスト作品です。ベックの作品としても2000年に入ってからなら恐らく1位。『Sea Change』よりも好きだ。

ちなみにフレンチポップ関連として、フェニックスがグラミー賞を受賞したらしい。おめでとうございます。



Beck & Charlotte Gainsbourg / Heaven Can Wait

シャルロット美人だよなー。




Four Tet / There Is Love In You


彼がダブステップをやるとこんな風になってしまうんだなぁ。Kieran HebdenことFour Tetの5枚目のアルバム。

一曲目からミニマルな展開と軽快なダブステップにおや、と感じるが、曲が進むにつれて、あぁFour Tetだ、と頷いてしまうのは、やっぱり彼の原点であるフォークトロニカの匂いが漂うからであろう。しかし今までにこんなに軽快なフォークトロニカが存在しただろうか?こんなことを成し遂げるあたりが彼の鬼才ぶりと嫌らしさなのだろう。

今回のアルバムで彼がダブステップに特化している理由として、やはり昨年のBurialとのコラボが大きいと思われる。昨年のダブステップブームの楽曲たちにも劣ることのない、というか、そのブームに上手く乗っかり最も成功したアルバムとも呼べる今作は、天才Burialの良い所を上手く盗み、それを自分の音に変えてしまった”鬼才”の偉業なのである。


シングル曲「Love Cry

Spoon / Transference


ゼロ年代、アメリカのインディーシーンで最も勢力的に活動し、数々の傑作を生み出したバンドの一つ「スプーン」の通算7作目となるアルバム。10年代ムーブメントの先駆けとなる今作は、7作目にして尚、実験を続ける彼らならではのユーモアとポップさのアイディアの詰まった引き出しを最大限に活かした作品である。


今回のサウンドでの変化が顕著である部分は、空間系のリバーブ・ディレイを多用した音のエフェクトである。これによって醸し出される雰囲気はThe Clashの『ロンドン・コーリング』や、ましてや昨年亡くなったキング・オブ・ポップを始めとするR&Bを感じさせる。さらにヴォーカルのブレット・ダニエルから発せられるあの声、その独特な倦怠感を包むようなエフェクトにより、よりヴォーカルに”リアル”を感じることが出来る。音楽オタクでも知られるブレットの中の黒人ミュージックに対する解釈とでも呼ぶべきか。

キャッチーさとポップさに追求した前作に比べると、よりダークで渋く、少々難解な所もあるかもしれない。しかし10年代に入り早々、アメリカインディーのドンが投げかけた、この『Transference(感情転移)』というアルバムは、明らかに我々の心の中の「感情」に問いかけているのである。


The xx / XX


こんなにもシンプルなドリームポップが今までに存在しただろうか?ロンドン発のThe xxは皆弱冠20歳という強力な4人組である。

このアルバムにおいて、僕は無駄な音を見つけることが出来なかった。冒頭から高揚感たっぷりのドリーミーなサウンドが流れてくるのだが、これをドリームポップを奏でるニューカマーと括るのは違うな、と思ってしまう。明らかにこのバンドを作っているダブステップが従来のドリームポップサウンドとは相違をなしているのである。全ての音が絶妙に入ってくるため、いかにも1stアルバムという感じはするのだが、これらの楽曲を全て自分たちで手がけたという所からも、やはり意図的、作意的なアルバムなのである。

ダブ、ポストパンク、ドリームポップと、様々なジャンルが当てはまりそうで、どれも当てはまらないという全く新しいジャンルを生み出した彼らのデビュー作を、ただ凄いと言って片付けるのは簡単なことである。しかし何が凄いかって、それは恐らく4人揃って初めて完璧な音になるということ。シンプルが故に一つの音にも狂いを生じさせることが出来ないということ。こんなにも相性のいいメンバーが揃ったバンドが悪い作品を作るはずがないだろう。どんな有名プロデューサーも彼ら4人の間に入っていくことはできないのである。それは調和を乱すことになるから。こういうバンドを見てると、やっぱりバンドって良いなって思ってしまうんだよなぁ。

ライブもまた絶妙。